旬の人
天売島から地球を考える
寺沢 孝毅さん(天売島)
留萌管内羽幌町の沖合に浮かぶ小さな地球・ 天売 ( てうり ) 島。
国内唯一のオロロン鳥の繁殖地であり、海鳥と人間が共生する。
この島には小さな生命を見つめ続けるひとりの写真家がいる。

「幼い頃、3月の雪原で偶然みた青い鳥。その鳥が僕の人生の方向性を決めました」。天売島に暮らす自然写真家の寺沢さんは静かに振り返る。教員だった父の転勤先、道北の和寒町で見た青い鳥はルリビタキ。以来、野鳥に魅せられ、一眼レフのカメラを携えて野鳥観察に熱中する少年時代を過ごした。大学卒業後、教員となり赴任先に天売島を希望し、鳥への興味がこの島を選ばせた。
当時、オロロン鳥(ウミガラス)の減少は問題視されていたが、その情報は発信されていなかった。赴任した年、報道機関がチャーターした船に同乗し、オロロン鳥の繁殖地でコロニーを確認。だが、翌年、再度調査に訪れた寺沢さんの目に映ったのは、オロロン鳥が姿を消したコロニー。以来、断崖の繁殖地に通い、定点観測を続けた。最終的に地域を守るのは、そこに暮らす人であると考え、教員15年目に職を辞め、島で生きて行きることを決めた。

『小さな細胞、小さな地球』
寺沢さんは海という宇宙に浮かぶ天売島をこう呼ぶ。
人の身体の細胞一つの病みが、命取りになりかねないように、天売島の環境に及んでいる現実が地球の未来を物語ると考えている。現在、天売島という小さな地球を拠点に、東南アジアのボルネオ島、北極の自然環境、そこで生きる動物達の姿を追っている。
ボルネオ島では、経済活動の犠牲となっている野生動物を取材。ロザリンダと名付けた孤児のオランウータンの取材を重ねる。
北極では雪と氷の世界で生きるホッキョクグマの今を追う。身近な自然や動植物への関心と愛情は、いつの日か遠くで生きる生命にも伝わる。これは寺沢さんも持論だ。
「天売島は日本の端っこにある。だが、この国のきれいな空気、新鮮な食料を常に下支えしているという誇りを持ち、地球環境第一主義を貫きたい。」祈る気持ちで各地を取材し伝え続ける。

幼い日に見た青い鳥。
天売島へと導き、世界へ誘った青い鳥はその羽を羽ばたかせ、今も心の中を鮮やかに舞う。

【オロロン鳥】
チドリ目、ウミスズメ科に分類される海鳥。「オロロン」と鳴くことからオロロン鳥と呼ばれる。背が黒く腹は白い。直立した姿はペンギンに似ている。漁網による混獲、天敵の増加、餌の減少などにより絶滅の危機に瀕している。
田中克子さん
寺沢 孝毅さん
昭和35年生まれ
天売島在住

自然写真家
海の宇宙館代表
有限責任事業組合
  守りたい 生命 ( いのち ) プロジェクト代表

大なつめ
天売島のケイマフリ
【撮影:寺沢 孝毅氏】