トップページ >稲垣順子さん(幌延町)

あり続ける自然、響きあう私・・・・・稲垣順子さん(幌延町)

利尻礼文サロベツ国立公園に指定されているサロベツ原野は、稲垣さんにとっていつでも心が帰る場所である。

稲垣さんは夫婦でパークボランティアをつとめ、自然体験プログラムであるネイチャーゲームを通じて、サロベツ原野を訪れる人々に自然の魅力を伝える活動を永く続けている。サロベツの豊かな自然を体感する喜びを知っている二人ならではの活動と言えるだろう。

ご主人の綋順(こうじゅん)さんは幌延町下沼地区に百年余り続く法昌寺(ほうしょうじ)の住職である。釧路市出身の順子さんが町立北星園に就職し、職場の先輩であったご主人と出会った。共通の話題「剣道」が縁となり、二人は意気投合し、まもなく結婚に至った。

今は亡き綋順(こうじゅん)さんのお母さんは順子さんにとって憧れの女性だった。
戦火をくぐり抜けた逞しい精神力と、小事にとらわれることのない大陸的な考え方に尊敬の念を感じて過ごした。「お義母さんが元気な頃の庭は雑草ひとつない美しい庭でした」とその人柄を語る順子さん。

ご主人とご主人の両親、そして3人の子ども達との穏やかな生活の中にあり続けたのはサロベツ原野の豊かな自然だった。
3人の子ども達と日課のように原野を散歩する時、ただただそこにあり続ける自然の魅力は、順子さんにとっては心が帰る場所となっていった。
「自分の子どもだけではなく、保育所の子ども達やお寺に集まる日曜学校の子ども達にもみせてあげたい」と思うようになった。
当時はまだ、環境教育という概念が浸透していない時代だった。

法昌寺では小学生を中心に日曜学校を開催している。
本堂でのお参りと法話の後は持参したお弁当をみんなで食べる。
午後からはサロベツ原野での「忍者遊び」だ。バンダナを巻き、忍者になりきり、無言の行や、ネイチャーゲームなどを通しながら自然と一体になって遊び学ぶ時間だ。子ども達は非日常の体験に夢中になるという。

ある日、日曜学校に通う少女が順子さんに質問した。
「順子先生、お寺と神社は似てるけど、どこが違うの?」
「そうね、お寺には仏様、神社には神様がいるのよ」
「どっちが偉いの?」
「さて、どっちだろうね~」と答えた順子さんに、少女はこう言った。

「順子先生、仏様と神様は仲良しだと思う!」
素直な子どもの感性に、感動さえ覚えた順子さんだった。
日曜学校に通う子ども達と過ごす時間も順子さんにとって大切な時間なのだ。

サロベツ原野を散歩するとき、順子さんは「口琴(こうきん)」をポケットに忍ばせる。原野でひとり「口琴」を共鳴させる。口琴は竹や金属で出来た弁を口にくわえたり口元にあてて固定し、弦や端を振動させて音を出す民族楽器だ。北方民族でサハリンに住むサハ族の口琴による演奏をみてから興味を持つようになった。アイヌのムックリ、ハンガリーのゾルタン、どれも順子さんの大切な宝物である。

今は雪に閉ざされたサロベツ原野。
春の足音はまだ聞こえない。
吹きつける雪の下、サロベツの自然は春の訪れを待ちながら芽吹く準備をしているだろう。順子さんも、自然と一緒に今は静かに冬眠中。
春が訪れるその日まで。


2010.01.22 幌延町

順子さんの夢はシルバーボランティアとして海外で活動すること。「行ってもいいよ」とほほ笑む綋順さん。優しい時間が流れる(左写真)
冬のサロベツ原野(中央)    宝物の口琴(右)

 
稲垣順子さん

昭和35年生まれ
釧路市出身
利尻礼文国立公園パークボランティア

サロベツネイチャーゲームの会会員

サロベツの自然を通して人と自然の共生や、人と地域の繋がりについて学ぼうと、現在、通信制で共生科学を学ぶ大学生でもある。



順子さんが主宰する「とんこり堂」ではお寺の本堂や一室を利用して絵本展やコンサートなどを不定期で開催している。とんこりとはアイヌ語で「お互いに響き合う」という意味がある。その名の通り、主宰する順子さんと訪れる人々が響きあえる場となればとの想い込められている。


■浄土真宗本願寺派
       響流山 法昌寺
天塩郡幌延町字下沼81     電話:01632-5-2556
TOPにもどる